日経新聞より

三菱UFJ、英銀資産買収合意を発表

 三菱UFJフィナンシャル・グループは15日、英銀大手ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)の開発金融(プロジェクト融資)事業の関連資産を買収することで基本合意したと正式発表した。年内に最終合意し、欧州・中東・アフリカのインフラ事業向けの約38億ポンド(約5000億円)のローンと数十人規模の人員を来年前半に引き継ぐ。

三菱UFJ、優先出資証券の発行停止 新資本規制への対応課題

 三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)は普通株への転換権のない「優先出資証券」の新規発行を停止する方針だ。新しい自己資本規制で、同証券の資本算入が大幅に制限される方向となったためだ。みずほ、三井住友両FGを含め、3メガバンクは5兆円規模の資本を優先出資証券で調達してきた。代替資本をどう調達するかが課題となりそうだ。

 三菱UFJは15日、1月に期限を迎える1650億円の優先出資証券を予定通り償還すると発表した。一方、これまでは償還に合わせて借換証券を発行するのが通例だったが、今回は決議を見送った。バーゼル銀行監督委員会の新規制の議論で、普通株転換できない優先出資証券の資本算入は原則、認めない方向になったためだ。

 邦銀は優先出資証券への依存度が高い。中核的自己資本に占める割合は今年3月末時点で、みずほが37%(1兆9378億円)、三井住友の27%(1兆6333億円)、三菱UFJの15%(1兆5715億円)に上る。

 三菱UFJは「普通株増資の必要はない」(永易克典社長)と、利益の積み上げで代替資本を積み上げる考えを示している。みずほは2011年度以降、三井住友は2012年度から段階的に償還が始まる。優先出資証券は約10年間の経過期間は資本として認められる方向のため、即座に資本から差し引く必要はないが、各行とも中期的には資本の入れ替えを迫られている。

米量的緩和、FRBは撤回を 学者ら声明「通貨下落などリスク」

米国のエコノミストや大学教授ら23人が米連邦準備理事が決定した量的緩和を非難する声明を15日付の米ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)に掲載した。

 タイトルは「ベン・バーナンキ(議長)への公開書簡」。冒頭から「我々はFRBによる大規模な量的緩和は再考のうえ、撤回されるべきだと信じている」と断じている。「現状では量的緩和が必要不可欠とも、的を射たものであるとも思わない」とその経済効果に疑問を投げかけるとともに「通貨の下落とのリスクにさらすことになる」と警鐘を鳴らしている。

 さらに、量的緩和は「他の中銀からの反対にあった」と他国の批判に触れ、「米国やグローバル経済の問題に取り組むにあたって、量的緩和は認められるべきものではないし、有益でもないという懸念を理解する」と締めくくっている。

金融危機と信用機構 (19) 米国の預金保険機関 破綻処理で強力な権限・陣容

 預金保険機関が担う業務範囲は各国様々である。預金の払い戻しのみを行う場合もあれば、金融機関の検査・監督や破綻処理などまで幅広く行う例もある。現状では、欧州の多くは前者、米国は後者、日本はその中間(監督権限はないが破綻処理を担う)と位置づけられる。



 世界で初めて預金保険を創設した米国の制度は整備が進んでいる。さらに米連邦預金保険公社(FDIC)は破綻処理の遂行に際し、以下の点で世界に類例の少ない強力な権限と資源を持っている。第一に、早期是正措置に基づき、破綻の約3カ月前から当該金融機関に職員を派遣し、システム面や受け皿金融機関探しの準備ができる。第二に、管財人機能を有しており、破綻処理に際しては裁判所などの監督を受けずに大きな権限・裁量を行使できる。第三に、人員・予算規模が大きい。直近の人員は日本の約18倍である。

 こうした環境下で、FDICは破綻の急増にも円滑に対処してきた。破綻処理は、破綻先の資産・負債を受け皿金融機関(健全な金融機関)が承継する方式と、破綻先を清算して預金を払い戻す保険金支払い方式とに大別される。FDICは、破綻金融機関の資産を査定し、自ら資産を回収する場合の回収金額と破綻処理費用を見積もる。この想定費用に比べより有利な条件なら、FDICは受け皿金融機関に資産・負債を譲渡する。

 今回の危機では、2008年から今年11月5日までの308件の破綻のうち290件が受け皿金融機関に承継され、そのほとんどで全預金が保護された。米国では預金の保護範囲が元来広い上、危機を受けて保護限度額が10万ドルから25万ドルに引き上げられた。また決済性預金を全額保護する制度も時限的に導入された。このため受け皿金融機関が預金の保護限度額(付保預金額)を超えて全預金の継承を計画しても、受け皿金融機関に多額な費用負担を発生させずに想定費用を下回るケースが多かった。これが預金が全額保護されやすかった背景となった。

(預金保険機構・調査室)

やさしい経済学 データでみる非正規雇用(5) 「不本意」の満足度 慶応義塾大学准教授 山本勲

就業形態による労働者の主観的厚生の違いを心身症状指標で比較すると、本意型の非正規雇用と正規雇用で大きな違いはみられないことがわかった。それでは不本意型の非正規雇用ではどうだろうか。



 『慶応義塾家計パネル調査(KHPS)』を用いて、心身症状指標を比較してみると(図)、不本意型の非正規雇用のほうが正規雇用よりも高いスコアに分布する傾向があることがわかる(スコアは個別の心身症状の大きさを0〜3点に換算し、11項目について合計したもの)。この傾向は、所得や資産、年齢などの個人属性の違い、あるいは、心身症状から就業形態選択への逆の因果性の可能性などを考慮しても変わらない。つまり、不本意という言葉からも予想されるとおり、不本意型の非正規雇用の心身症状は正規雇用よりも悪く、主観的厚生水準は低くなっている。このことは、同時に、不本意型の非正規雇用者が正規雇用者に移行できれば、主観的厚生水準が改善することを示唆しており、実際のデータからもそうした事実が観察される。

 なお、不本意型の非正規雇用の主観的厚生水準の低さは、大阪大学の大竹文雄氏や経済産業研究所の鶴光太郎氏らによる最近の研究でも確認されている。彼らは、経済産業研究所が実施した日雇い派遣労働者をはじめとする非正規労働者へのアンケート調査を用いて、不本意に非正規雇用として働いている労働者ほど、幸福度が低いことを明らかにしている。

 一方、不本意型の非正規雇用と同様に需要制約の影響を受けやすい失業についてはどうか。再びKHPSのデータで、失業と心身症状指標との関係をみてみると、失業者の心身症状指標は不本意型の非正規雇用者と同程度の大きさであり、かつ、正規雇用者よりも統計的に有意に高いことが確認できる。

 失業が主観的厚生水準を低くすることは、国内外の先行研究の結果と一致するが、失業と同様、不本意型の非正規雇用でも労働者の主観的厚生水準が低下することは注目すべきであろう。主観的厚生水準を比べた場合、同じ非正規雇用であっても本意型と不本意型では大きく異なり、むしろ不本意型の非正規雇用は失業に類似する形態と位置づけられる。